2016/03/30

Tout En Haut Du Monde

 去る3月19日に東京アニメアワードフェスティバル2016で上映された長編アニメーション映画『Tout En Haut Du Monde』(監督:Rémi Chayéレミ・シャイエ、フランス・デンマーク合作、2015年、英題:Long Way North)について。


▼Tout en haut du monde - Bande-annonce


▼Tout En Haut Du Monde - Site officiel(仏語公式サイト)
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●TOUT EN HAUT DU MONDE | 上映プログラム | 東京アニメアワードフェスティバル2016
●Tout en Haut du Monde(仏語FB)
●TOUT EN HAUT DU MONDE, le blog(仏語blog)
●RÉMI CHAYÉ(レミ・シャイエ監督のブログ)
●diaphana ● Tout en haut du monde(仏配給会社の作品紹介)
●Sacrebleu Productions(制作会社website)
●Rémi Chayé Interview - Fantoche 2015 - CHTV(監督の英語インタビュー動画)
●Rémi Chayé Interview: ‘Long Way North’ and The Indie Challenge(監督の英語インタビュー記事)


《あらすじ(公式サイトより)》

1882, Saint-Pétersbourg. Sacha, jeune fille de l’aristocratie russe, a toujours été fascinée par la vie d’aventure de son grand-père, Oloukine. Explorateur renommé, concepteur d’un magnifique navire, le Davaï, il n’est jamais revenu de sa dernière expédition à la conquête du Pôle Nord. Sacha décide de partir vers le Grand Nord, sur la piste de son grand-père pour retrouver le fameux navire.

(拙訳)
 1882年、サンクトペテルブルク。ロシア貴族の娘サーシャは、祖父オルキヌの冒険生活にずっと憧れていた。有名な探検家であり、壮大な艦船ダヴァイ号の発案者でもある祖父は、北極を征服する最後の探検から戻ってくることは無かった。サーシャは祖父の航路をたどって北極へと出発する決心をする。問題の艦船を発見する為に。


《感想等(ネタばれ有り)》
(ところどころ記憶がおぼろげなので、仏映画公式サイトや配給サイトを見ながら補完しています。エピソードや固有名詞に間違いがあったらすみません。)

 2年前に北極を目指して出向したきり帰ってこない祖父。捜索船は出たが、それもまた行方知れず。祖父の名誉は地に墜ち、その名を冠した科学資料を集めた図書館は開館されない。父は大使の職を求めて娘を良家に嫁がせたい。社交界デビューの直前、娘は祖父の部屋から航路のメモを見つけ、それが捜索船がたどったものとは異なる事に気付く。再び捜索船を出して欲しいと娘は舞踏会の場で王子に懇願するが受け入れられない。王子の不興を買い、父からの叱責を受けた娘は、自ら祖父の居場所を突き止めようと決意する。――サーシャが目指すものは、は祖父との再会、遭難した艦船ダヴァイ号の発見、そして何よりも真実を突き止める為の旅だったと思います。その行程は苛酷なものであり、様々な困難が待ち受けています。北方行きの商船ノルジュ号に乗せて貰おうと船長の弟に話しを持ち掛けるが手違いで乗れずひと月待たされ、その間港の宿屋に泊めてもらうも調理や給仕といった未経験の仕事をしつつ貴族とは異なる暮らしを送り、ようやく船に乗り込んだ後に待ち受ける多くの試練。船乗りの経験も無く、しかも女性であるサーシャには大変な日々だっただろうと思うのですが、船員としての仕事を覚え、他の船員を助け、仲間の信頼を得ていく過程には、彼女の賢さと勇敢さが良く表れていて、感嘆させられました。

 原題『Tout En Haut Du Monde』を映画祭通訳の方は「世界の天辺」と訳していましたが、たどり着いたかに思えたそこは何も無い氷の世界であり、絶望の世界に感じられました。零下と飢えの極限状況の中で船員達との争いが起き、仲の良かった者からもののしられ、それでもくじけないサーシャの強さに感動とあこがれを覚えました。その強さと聡明さゆえ、サーシャは仲間の信頼を回復し、北極点に到達します(サーシャの方位磁石が回転していたので、そう判断しました)。最後、祖父が立てた小さな旗が風に飛んでいくのですが、本当に大事なのは未開の地を征服する野心や名誉ではなく、真実を目指し探求する過程にこそ意味があるのだというメッセージであると受け止めました。全体として、美しく感動的な物語だと思ったのですが、ネガティブな感想も少しだけありました。下の方にこっそり記しておきます。

 今回の映画祭の上映では、ゲストに絵コンテ・作画監督のハン・リヤン・ショー(Liane-Cho Han)氏を始めとするスタッフと、プロデューサーのロン・ディアンス(Ron Dyens)氏が来日されました。その時語られたコメントや質疑応答を、当時の内容を正確に再現出来てはいないのですが、私にとって印象が強かった部分を書き留めておきたく、メモを元に記します。

(ハン氏より)レミ・シャイエ監督は、西洋に良くありがちな作品と異なるものを狙った。展開の早いストーリー・くだらないジョークと正反対の知性で取り組んだ。詩情性のある作品を小さい子供でも理解する事を証明したかった。これはリスキーな賭けで、プロデューサーのロンさんだけがセンスの確かさで、この作品の可能性を信じてくれてた。そして、5歳の子供でも見て楽しんでくれた。常に同じ様なものでなくても子供は喜ぶことを証明してくれた。

(Q1:最初に発表されたティーザーよりもサーシャのデザインが幼くなっているが、変更の意図は?)
 ―当初はサーシャの唇が描かれている。しかし、制作の予算から出来る限り単純化して、モチーフを減らした。パイロットはフルアニメ・2コマ撮りで撮っているが、作監として入った時点から、とにかく情報量を減らすしかなかった。パイロットも本編もフラッシュで作っているが、作業を減らすために「シンボル」という機能を使った。アニメートも基本は3コマ撮りで、日本のアニメの制作の流れを参考にした。派手に動きまくるアニメーションではなく、感情に重点を置いた。

(Q2:作画の参考に3Dモデルを使っているか?)
 ―3Dモデルは乗り物(船・馬車・そり)だけ。人物には使っていない。

(Q3:色使いが深かった。色彩のコンセプトはどうやって決めたのか?)
 ―色は、美術監督で画家でもあるパトリス(Patrice Suau)の貢献が大きい。シーン毎の小さなスケッチで色のシステムを作り、プログラムで色のバランスがとれるようにし、本編の画像に配色出来るようにした。(←この辺りは理解が追いつかず、上手くメモがとれていません…)パトリスも監督も、20世紀初頭の電車内の広告(ここでカッサンドルの名前が挙がったような覚えがあるのですが、メモしておらず…)、印象派、ナビという美術の流れ(ナビ派を指していると思います。→参考:ここここここ等)に影響を受けている。

(Q4:サーシャの前髪が垂れる意図は?)
 ―キャラクター毎にシンメトリーがある。どのキャラクターかの判断をしやすくする為。これを壊す為に、髪の毛を一本だけ動かしている。

……、と、ここまで書いて、「アニメ!アニメ」にイベント・レポートが載っている事に気が付きました(→こちら)。最後の質問のシンメトリーに関しては「キャラデザは反転できるように左右対称としている。」との事です。また、映画祭コンペ審査員の方々のコメント等も載っていて、専門家ならではの見所に示唆を受けました。


 この記事の上の方に関連リンクを大量に載せていますが、現状日本語情報が少ないので参考になるかと思います。特に、フランスの映画公式サイトは概して長期間は置かれないので、一覧をお勧めします。「Carnet de voyage(旅の手帖)」はpdfファイルがダウンロード出来ますので(→こちら)探検の持ち物や航路をチェックしたり、ロープの結び方を練習するのも、将来何かの役に立つかもしれません。


《…ネガティブな感想(以下、白文字で書きます。読む際にはドラッグなどしてみて下さい)》
全部で3点あります。
・サーシャの友人の描写…冒頭でサーシャと一緒に祖父の名前を冠した(まだ開館していない)図書館に潜り込んだ、友達のナージャ(Nadya)という少女。地味なキャラデザインの上、言動がいかにも旧態依然な女子っぽくて、サーシャの引き立て役に見えました。物語の都合で配置された人物像に見えたのです。でも、ラストで帰港したサーシャを出迎えた姿は初登場の時よりも成長してるように見えましたし、友達思いの気立ての良さが感じられて、そこは好感が持てました。
・サーシャが丈夫すぎる点…全く船酔いしないし、大の大人がヘトヘトなのに平然としていられるのは、単に根性があるというだけではない不自然さを感じました。氷河で船が大揺れする場面では、見ている私の方が酔いました。また、技術的に難しいのかも知れませんが、サーシャ(を始めとする船員達)の服装が綺麗なままというのは、致し方ないと割り切るしかないのでしょうか。更に、凍傷や雪目の心配はしなくて良いのかとも思ったのですが、比較対象が幼少の頃に読んだマンガ『ジャングル大帝』のムーン山探検というのは反則でしょうか。TVアニメを通して見た事が無いのですが、その部分は原作通りには展開していないのですよね?
・サーシャとカッツ少年(Katch)の不用意な身体の接触…二ヶ所ありましたよね。航海したての時と、北極でサーシャが遭難したのを救助する時と。実際にそういう事態になった時にあり得る話と受け入れるべきなのかも知れませんが、好きでも無い男性とそういう接触をする場面を見るのは(そういう場面を観客として受け入れざるを得ないというのは)、あまり良い気がしませんでした。男性の観客が見ると、違う感想になるのでしょうか。以上です。

(最終更新日:2016年4月14日)


(当ブログ関連記事)
●『Long Way North(Tout En Haut Du Monde』英語版公式サイトとtwitterアカウント(2016/08/19)

2016/03/19

Ana Pirata

 前回のエントリでコロンビアのTV局で放映されている子供向け教育TVアニメを取り上げましたが、YouTubeでその動画をあれこれ探している内に、サイドバーに表示される関連動画で気になるアニメ作品がありました。「Ana Pirata(海賊アナ)」というタイトルで、コロンビアのアニメなのですね。少しづつ調べていきたいと思います。


●Ana Pirata and The Oranges Island


●Ana Pirata: la serie infantil colombiana que llega a Discovery Kids
●La Mar | Ana Pirata


制作会社「La Mar Media」の作品紹介より

DESCRIPTION
Ana, una niña tímida y sobreprotegida, se convierte en una pirata intrépida, decidida y aventurera cada vez que su bañera mágica se transforma en un barco corsario. Con Cua-cua su amistoso y fiel pato de hule, viven aventuras fascinantes, trabajan en equipo y resuelven problemas a través de estrategias. Ana Pirata demostrará que todos tenemos un valiente adentro, enfrentando los riesgos más temidos y los peligros jamás imaginados.

→FORMATO:
Serie de ficción animada con un gran componente musical.

→AUDIENCIA:
Niños de 4 a 6 años.

→PRIMERA TEMPORADA:
12 episodios de 6 minutos.

→OBJETIVOS:
Desafiar los estereotipos de género, dar herramientas a los niños para superar el miedo, promover la autoconfianza.

(拙訳)
作品解説
アナは内気で甘やかされて育った少女。魔法のお風呂が海賊船に変わる度に、大胆不敵で毅然とした向こう見ずな海賊に変身する。仲良しで忠実なゴム製アヒルのクアクアと共に魅惑的な冒険におもむき、チームワークで活躍し、作戦を組んで問題を解決する。海賊アナは、私達が持っている勇敢な内面や、より恐ろしい危機に立ち向かうところや、これまで見た事も無い危険の数々を見せることでしょう。

→形式:
素晴らしいミュージカルで構成されたフィクションアニメシリーズ

→視聴者:
4歳~6歳の子供

→第1シーズン:
6分×12話

→目的:
ジェンダーのステレロタイプに挑み、恐怖を乗り越える道具を与え、自分を信じることを奨励する。


(最終更新日:2016年4月24日…追記予定)

Puerto Papel

 日本時間で昨日、フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭オフィシャルセレクション、長編部門以外のコンペティション作品と、コンペティション作品の短篇部門が発表された模様です(→参考:公式ツィッターアカウント@annecyfestivalより)。実に沢山のアニメーション作品がノミネートされていますが、そこから気になった作品をピックアップしようと思います。


 まずはTVアニメ部門から「Puerto Papel(プエルト・パペル、紙の港の意?)」(→アヌシーの紹介ページ)。紙で出来たキャラクター達がユーモラスな表情をしているのが目を惹きました。また、チリ・ブラジル・コロンビア・アルゼンチンと、ラテンアメリカ4ヶ国合作というのも興味深い所です。ノミネートされているエピソードを見る事は出来ませんが、YouTubeに幾つかの動画がUPされていました。


●Puerto Papel - Lunes a viernes - 10:00 a.m. · 1:30 p.m. · 8:00 p.m.

 …「プエルト・パペルへようこそ!」以外のセリフが全然聞き取れませんが、番組の宣伝CMみたいです。昨年の12月7日月曜日から放映開始。動画をUPしているアカウントの「Mi Señal(ミ・セニャル、私の信号の意?、→サイト)」は、コロンビアの公共テレビ放送「Señal Colombia(セニャル・コロンビア)」の子供向け部門のようです(→参考:Mi Señalの紹介ページSeñal Colombiaのウィキペディア)。


 紙の質感がはっきりと見えるのが面白いのですが、どうやってアニメーションを作っているのだろう…。と思っていたら、メイキング動画が。パソコンでデザインして、切ったり貼ったり組み立てたり…、人形も舞台のセットも紙で作っているのだから恐れ入ります。紙の質感とは違い、人形を動かす為の金属の骨組みはがっしりしてます。
●Puerto Papel / Making of

 …動画をUPしている「Zumbastico Studios」は、このアニメの制作会社なのですね。サイトは→こちら。チリの会社だそう。作品一覧のサムネイルを見ると他の作品も面白そうで、後日改めてチェックしたいと思います。「Puerto Papel」の紹介ページは→こちら。12歳のマチルダは特殊能力を持っていて、毎日、新しく、並外れた、不条理なマジックパワーと共に目覚め、それはコントロールも選ぶのも出来ない。友達のカルロスだけが彼女の秘密を知っていて、一緒に「プエルト・パペル」という町で、とてつもない体験や、誤解を招くようなおかしな事をして暮らしているのだそうです。


 更に見つけた動画によると、サイトから図をダウンロードするとキャラクターの紙人形が作れるみたいなんですが、それぞれのエピソードに出て来る秘密のコードを書き留める必要があるとの事で(→こちら)、私がチャレンジするのは無理なようです。
●¡ESTRENO! Puerto Papel - Descarga los personajes con el código que aparecerá en el capítulo


(最終更新日:2016年4月6日)

2016/03/18

Historia de un oso(英題:Bear Story)

(↑拙訳:チリが2016年のオスカーで競合するアニメーションの背後に厳しい物語が有る)

(↑拙訳:ピノチェト体制の暴力についてのメタファーがチリ初のオスカーをもたらす)


 2月28日(現地時間)に第88回アカデミー賞が発表され、短編アニメーション賞は「Historia De Un Oso(英題:Bear Story、或る熊の話)」が受賞したとの事(→参考:映画.com)。BBC電子版西語版では、授賞式の前にノミネート情報として記事をupし、受賞発表後に加筆修正をしていました(→こちら)。チリの映画がアカデミー賞にノミネートされるのは2013年外国映画賞部門の『NO』以来なのだそうです。短編アニメーションにノミネートされた競合作品の中にはピクサー・アニメーション『ボクのスーパーチーム(→映画.comの作品紹介)』もあり、上記BBC電子版西語版によると、Gabriel Osorio(ガブリエル・オソリオ)監督は「我々はピクサーと競合していて、それはとんでもないことだ。我々は違うレベルのアニメーターで、ピクサーはアニメーションのオリンポスだ。想像してごらん、我々の短篇にかかった費用は4万ドルで、その金額で彼らは映画の一秒分を作る」と笑いながら語ったそうです。しかし、そのような冗談めいたコメントとは裏腹に、この短編アニメーション作品は、どてもハードな背景を持った物語だそうです。


▼『Bear Story(原題:Historia de un oso)』英語版公式サイト
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▼Trailer BEAR STORY / HISTORIA DE UN OSO

Trailer BEAR STORY / HISTORIA DE UN OSO from Punkrobot Studio on Vimeo.


 上記BBC電子版西語版記事にも公式サイトの「about」「DIRECTOR'S STATEMENT」欄にもある通り、この物語は監督の祖父の亡命にインスパイアされているとの事。1973年のピノチェト独裁政権下のチリで拘留され、2年間投獄された後にイギリスに逃れ、家族と離れて亡命していたとの事。監督は幼い頃、死んではいないけれど、生まれ今までに姿を見せない、いない祖父の目に見えない存在を感じていたのだそうです。


 この作品が今後日本で上映されるかどうか分かりませんが、もし観る事が出来た時、チリとは遠く離れた国に生まれ育った私はどのように感じるでしょうか。もしこの背景を知らずに見たら?スクリーンで観る日が来る事を祈ります。