2015/02/14

外国映画DVDに潜む外国漫画の話題

 近年、外国漫画の邦訳の出版が増えてきているとはいえ、日本国内の漫画出版点数の中では微々たるものだし、日本人の多くは外国でどんな漫画が読まれているかご存じないと思います。しかし、注意深く目をこらすと、そこここに外国漫画の情報が潜んでいるのです。そこで今回は、レンタルDVDで発見したそれらの小ネタを3つ、ご報告したいと思います。


●『デビルズ・バックボーン』特典映像より
devils_backborn_storybord.jpg
 ギレルモ・デル・トロ監督のスペイン映画。2001年製作。2004年日本公開(→日本版公式サイト→日本語版Wikipedia)。内戦下のスペインの孤児院を舞台にしたホラー映画。この映画のストーリーボードの担当しているのが、スペインのベテラン漫画家、Carlos Giménez(カルロス・ヒメネス)氏。氏の公式サイト(→こちら)の中に、その画像があります(→こちら)。ツィッターで西紙『エル・パイス』電子版が代表作であり自伝的作品である『Paracuellos(パラクエージョス)』を紹介していて、記事中でその事に触れていました。
(▼拙訳:カルロス・ヒメネスの『パラクエージョス』、戦後スペインの最も恐ろしい物語の一つ)


 先にヒメネス氏公式サイトのストーリーボードを見てしまってはネタバレになってしまうと思い、DVDをレンタルして鑑賞した所、特典映像の中に、デル・トロ監督とヒメネス氏のストーリーボードと該当部分の映像が紹介されていました。しかし、解説にも、監督のオーディオコメンタリーにも、カルロス・ヒメネスという人が何者なのか全く語られていなかったのが残念でした。映画の設定とは時代が異なるといえども、ヒメネス氏の孤児院生活経験は、この映画に何らかの影響を与えていると思うのですが…。


●『夜のとばりの物語 ―醒めない夢―』より「イワン王子と七変化の姫」
 ミッシェル・オスロ監督の、5本の短編で構成されるフランス映画。2010年仏TV放映、2013年日本公開。(→公式サイト→仏語版Wikipedia)。日本でのキャッチフレーズ「もう私に恋をしたの?」は、仏語では下記字幕のように言うのですね。
le_conte_de_nuit_reve.jpg
 かなり強引な展開のロマンチックな影絵風アニメーションの数々。しばしの間、甘い気分にひたれます。寝る前に観ると良い夢が見られそうです。…と、ここまでは特に外国漫画の話題はありません。数年前に観た同監督の『アズールとアスマール』のラストが強引な取って付けたような印象があって、その時は、この人の人柄の表れなのかな、良い人だな、と思っていたのですが、その後『フランス児童文学への招待』(末松氷海子著、1997年西村書店刊)を読んで、31~32頁に書かれている「十七世紀の終わりから十八世紀の初めにかけて、大流行した妖精物語」の影響を受けているのか、はたまた踏襲しているのかなと思ったものでした。ちなみに、フランスの児童文学について書かれた本には、現地で長く読まれ続けているバンドデシネが紹介されている事が多いです。かつて、旧ブログで『フランスの子ども絵本史』について書いた事がありました(→こちら)。その他、私が見つけた範囲では、石澤小枝子著『フランス児童文学の研究』(1991年久山社刊)、フランソワ・カラデック著、石澤小枝子訳『フランス児童文学史』(1994年青山社刊)、私市保彦著『フランスの子どもの本』(2001年白水社刊)がありました。現在は入手難のものが多いかも知れませんが、とりあえず、東京都立多摩図書館で全部閲覧可能。そして、書籍内容をブログで紹介して下さっている方がいらっしゃいますので(→「存生記」2005年03月24日付記事)、そちらも参考になるかと思います。


●『イヴ・サンローラン』より
yves_amour_fou_lulu.jpg

 公私ともにパートナーであったピエール・ベルジェ氏が語る、イヴ・サンローランのドキュメンタリー映画。ピエール・トルトン監督。2010年フランス、2011年日本公開。(→日本語版公式サイト)イヴ・サンローランの死後、2人で集めた古美術品のコレクションをオークションに出すための搬出の模様と、2人のこれまでの軌跡の述懐と記録映像が織り交ぜて語られていきます。愛する人との別離が、コレクションが部屋から消えていく事によって輪郭を伴って描写されるので、最後には、やっぱり涙ぐんでしまいました。
 過去の回想で「モンドリアンルック」の話題になった時、モンドリアンの画集が届いたという映像が流れるのですが、その画集の側、デザイン画の下にあるのは、イヴ・サンローラン唯一の漫画『La vilaine Lulu(おてんばルル)』のアルバム(単行本)ではありませんか。『おてんばルル』の邦訳については、以前、旧ブログで書きました(→こちら)。ピエール・ベルジェ・イヴ・サンローラン財団のサイトはurlが変わっていますが(→こちら)、『La vilaine Lulu』の話題もばっちり存在します(→こちら)。
 そして日本ではTVアニメ化に併せて(旧ブログでのこの件に関する記事は→こちら)、2009年に邦訳のソフトカバー版が刊行されました。そこで、ハードカバー版からの変更が無いか、図書館で借りてみました。両者を並べた写真が以下の通り。
lulu_hardcover_softcover.jpg
 すると新たな発見が。「訳者あとがき」が新しくなって、本作の裏話が増えています。文中「(第2巻収録)」と書いてあるのですが、確かに映画のワンシーンでも2冊重なっているように見えます。また、私が旧ブログで書いた(→こちら)疑問点である「ルールレラ」の元ネタに変更がなされていました。
▼ハードカバー版
lulurella_hardcover.jpg
 ↓
▼ソフトカバー版
lulurella_softcover.jpg
 …私が旧ブログで書いた事は間違っていなかったようです。他にも幾つかの変更点や追加点があるのですが、個人的には何と言っても「訳者あとがき」の中の、ルルのモデルとなった人物と、「むずかしい選択」に出て来る「白ずくめの店」の元ネタとおぼしきブランド名が衝撃的でした。なので、ハードカバー版の単行本をお持ちのルルファンの皆様も、是非ソフトカバー版もチェックすべきだと思います。



 …と、3本の映画について、中に潜んでいる外国漫画の話題を挙げたのですが、他にもう一つ、思い出しました。台湾映画『セデック・バレ(→公式サイト)』の原作漫画についてです。「INTRODUCTION(→こちら)」に出て来る「「霧社事件」を扱った漫画」は、かつて邦訳が出版されていたのでした。ただ、私はまだ漫画を読んだだけで映画は未見だし、もう少し調べたい事もあるので、この件については、またいつか。(邦訳の存在を知ったのは、映画の公式サイトの文章からピンと来たのか、はたまたバンドデシネ情報サイトに作者のインタビューが載っていたので知ったのか、記憶が定かでは無いのですが、その辺も含めて、またいつか…。)


《最終更新日:12月12日》